「はぁっ!」
「ザシュッ!」
「グギャァァァ〜!」
 マイの華麗なる一撃が、襲い掛かるゴブリンを寸断した。
 スタンレーに向かう道程、マイとサユリの前にはゴブリンの群れが襲い掛かり、二人は応戦していた。
「我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ!エアスラッシュ!!」
 華麗にゴブリンの群れを掃討するマイに負けることなく、サユリも懸命にゴブリンの掃討に当った。
「サユリ、なかなかやる…」
「そういうマイこそ、相変わらず強いわね」
 どちらかがどちらかを守るということではなく、自分の身は自分で守りつつ、互いに互いを守り通そうとする姿勢が二人には見られた。
 今までは守られていたサユリであったが、ジュンとの望まざる別れがサユリに自分の身は自分で守らなければならない、そして自分も誰かを守らなければならないという意志を目覚めさせた。その思いの変化をマイも肌で感じ、防戦に傾く事なく戦いに専念することが出来た。
 そんな二人の息のあったコンビネーションの前には、ゴブリンは敵ではなかった。
「これでゴブリン達は全部…マイ危ない!?」
「ビュ!」
 ゴブリンを掃討し終え安堵に浸ろうとした刹那、マイに向かい一本のダートが放たれた!
「くっ!」
 ゴブリンを打ち倒し、その間一瞬の隙を見せてしまったマイは、そのダートを避け切れず負傷してしまった。
「ガサガサッ!グアア〜」
 草を掻き分ける音と共に、森の中に獣人共の呻き声が木霊した。二人の前に現れたのは獣人系モンスターブラザーの群れだった!
「サユリ…コイツ等はゴブリンより手強い…」
「ええ、分かってるわ…」
 単純に棍棒で殴り付けることしか知らないゴブリンとは違い、ブラザーは剣や弓で多彩な攻撃をする知恵を持ち合わせている。単体ならば何とか対処出来るものの、集団で襲われマイが負傷している状況では、勝算は定かではない。
「グアア〜!」
「葉よ、我が身を守らんが為宙を舞え!ダンシングリーフ!!」
「炎よ、我を護る防壁となれ!セルフバーニング!!」
 対ゴブリン戦の様に攻め一手の体勢を取れないと判断した二人は、それぞれ防戦に出た。
 マイは防御と回復を同時に行える蒼龍術ダンシングリーフを、サユリは炎の防御壁により身を守る朱鳥術セルフバーニングを唱え、己の身を固めた。
「グアア〜グアア〜グアア〜!!」
 しかし、群れを為すブラザーが相手では、それらの防御策は付焼き刃に等しかった。ブラザーの群れは宙を舞う葉、炎の防御壁に一瞬臆したものの、すぐさま体勢を整え再び襲い掛からんとしている。
「マイ…このままだとやられるわ…」
「ええ…」
「今だ!突撃!!」
 二人がもう駄目かと思った瞬間、何処からともなく黒色の鎧に身を包み黒毛の馬にまたがった数十人の騎兵達が現れた!
「グワワ〜!」
「ギャッ!」
 俊敏な機動性とその動きからは想像も付かぬ豪快な力を誇る騎兵達の活躍により、ブラザーの群れは一掃された。
「お嬢さん方、怪我はないか!?」
「脚に矢を受けた…。けど、もう大丈夫…」
「サユリ達を助けて頂き、感謝の言葉もありません。ところで貴方型はどちら様でしょう?」
 寸での所を助けられたサユリは、感謝の言葉を述べると共に、騎兵達が何者であるかを訊ねた。
「我々はスタンレーの私兵集団、黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターと呼ばれる騎兵集団です。村の周辺を哨戒している最中、ブラザーに襲われているお嬢さん方を見掛け、急いで助けに舞い上がったのです」
「そうでしたか。何か助けて頂いたお礼を為さりたいのですが、サユリ達に何か出来る事はないでしょうか?」
「はぁ、お礼と言いましても…」
「では、せめて貴方方のリーダーに一言お礼を申し上げたいのですが」
「ええ、その位ならば構いません。では我々にご同行下さい」
 一瞬途惑いを見せた小隊長らしき男であったが、黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターのリーダーに会いたいというのならば構わないと語り、サユリの願いを聞き入れた。
 こうしてマイとサユリは、黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターと共にスタンレーへ向かって行った。



SaGa−17「黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイター薔薇の騎士ローゼンリッター連隊」


 バーラト地方西方の平野に開けた小さな街、スタンレー。主に農耕畜産を産業の中心とし、人口は少ないが交通の中継地としてそれなりの繁栄を見せている。また、周辺からは良質の土が取れ、その土を元に造られるスタンレーの陶磁器は、世界でも有数の陶磁器として名を馳せている。
黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイター第三小隊、只今街の周辺の哨戒を終え帰還致しました」
 黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイター本部へと帰還した小隊長は、本部の大隊長室へ出頭した。
「うむ、ご苦労だった。ファルスの動きは今の所見えぬな」
「はっ、問題ありません」
 大隊長はオレンジ色の髪・薄茶色の目の細面の男で、外見から勇猛果敢な男である事が手に取るように男である。
「それと、哨戒途中モンスターに襲われている二人の女性を助け、その女性達が是非大隊長にお会いしたいと申し上げ、ここまで連れて来ました!」
「分かった。遠慮なく入ってもらえ」
「はっ。では小官はこれで下がらせていただきます」
 大隊長に敬礼し、小隊長は部屋を後にした。入れ代わりサユリとマイが大隊長室に入って行った。
「おお、なかなか綺麗なお嬢さん方だ。私は黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターの大隊長を務めるフリッツ=ヨーゼフ=ビッテンフェルトという者だ。ささ、遠慮なくそこの席にでも腰掛けてくれ」
 二人が自分好みであったのか、サユリ達の顔を見た瞬間ビッテンフェルトは裏返った様な声で自己紹介をしながら、二人を大隊長室の応接テーブルへと案内した。
「ありがとうございます。モンスターに襲われていた所を貴方方黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターに助けられ、そのお礼を申し上げたくてここまで参上仕りました」
「我々はこのスタンレーを守る騎兵隊、それは当然の事をしたまである。しかし、お美しいだけでなく、喋り方も上品極まりない。ひょっとしたらどこかのご令嬢か何かであろうか?」
「ええ。ローエングラム侯の妹、サユリと申します」
「サユリ…!」
 サユリがいきなり自分の素性を明かした事にマイは驚いた。半ばお忍びで旅をしているようなもの、簡単に素性を明かすのは軽率ではないかとマイは思った。
「いいのよ、マイ。相手が名を名乗ったならこちらも名を名乗るのが礼儀というものですから」
「何と、貴方がかのローエングラム侯の妹君にあらせられたか…。噂では聞いていたが、まさかこのような気品溢れる美しさを兼ね備えた方だったとは…。いやはや、返す言葉も見つからぬな」
 サユリのあまりに毅然とした態度に、ビッテンフェルトはサユリが嘘を言っているようには感じず、ローエングラム侯の妹である事を素直に信じた。
「ところで話は変わりますが、過日ファルスに赴いた際、このスタンレーが野盗を雇いファルスの貿易を妨害しているという噂を耳にしました。この話の真偽は如何程のものなのでしょう?」
「そんなもの、ファルスが言いがかりに決まっているだろうが!野盗に貿易を邪魔されているのは我々も同じだ。それをあろう事か我々が野盗を雇っているなどとは言語道断!」
 ファルスに対する怒りに身を任せ言を発するビッテンフェルトの態度に、サユリは少なくともファルスの主張は言いがかりであると理解出来た。
 目の前にいるビッテンフェルトはどう見ても嘘を付くような人間には見えない。今までのビッテンフェルトの言からそのような人物像が描き出され、サユリはビッテンフェルトは信用に値する人物だと理解したのであった。
「成程。では仮に貴方方が野盗の頭目を獲らえ、ファルスに突き出し身の潔白を証明すれば、問題は解決に向かうものでしょうか?」
「いや、そうとも限らん。そもそも奴等の腹はこのスタンレーを我が物とする事だ。なんせ奴等のバックにいるのは、かの悪名高きトリューニヒトだからな。
 数年前、謀略によりマリーンドルフ家を没落させハイネセンの経済を己の掌中に治め、そしてそれを基盤にバーラト一体を我が物とせんとする奴がバックに付いているのだ。例え野盗の頭目をファルスに突き出したとしても、違う言いがかりを付けスタンレーを併合せんとするに決まっている!」
 そしてその証拠が今回のファルスの傭兵招集だという。こちらの言に従わぬのならば武力行使に出、力尽くで相手を従わせる。それがファルス、いや、そのバックにいるトリューニヒトのやり方だという。
「我々黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターは機動性と攻撃性に富んだ騎兵隊だ。二倍程度の相手になら負けはせん。しかし、我々黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターは数において凡そ1,000、街の者共を戦いに招集しても2,500が限度。対するファルスは常備兵が2,000に加え、トリューニヒトの呼び掛けにより更に2,000の傭兵を招集したという話だ。
 こちらも2,500は出せるとはいえ、戦闘のプロは我々黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターのみに等しい。対するファルスは全員戦闘のプロと言っても過言ではない。かといって我々の資本力ではファルスのように兵を集めることも叶わん。クソッタレめ!」
 そう語るビッテンフェルトの顔には怒りと悔しさがにじみ出ていた。両方の常備兵同士の戦いならば絶対に負けないという自信があるのだろう。だからこそ資本力の大差から兵力差が出ることに怒りと悔しさを隠し通すことが出来ないのだろう。
「ではサユリの名を使い、お兄様に兵を貸すよう声を掛けて見て下さい。それがサユリの出来るせめてものお礼だと思いますから」
「むう。確かにローエングラム侯の協力を得られるならば百人力だ。しかし、ここからローエングラムの地まで伝令を送るのに、早くても三日は掛かる。その前にファルスが攻めて来る可能性も充分考えられる。サユリ嬢には申し訳ないが、あまり有効な手とは思えぬな」
「その点は大丈夫でしょう。力に頼るものはより強い力に臆病なものです。陸からのスタンレー軍、海からのローエングラム軍に板挟みになる可能性が少しでもあるなら、臆して真相を掴むまで兵を動かす事はないでしょうから」
「……。うむ、諒解した。サユリ嬢の提案、喜んで受け入れよう」
 暫く悩んだ末、ビッテンフェルトはサユリの提案を受け入れた。サユリの言動に指導者の技量を感じ、流石はローエングラム侯の妹君だとビッテンフェルトは思った。そしてその様にサユリに畏敬の念を感じたからこそ、ビッテンフェルトはサユリの提案を受け入れたのだった。
「ありがとうございます。では今からお兄様にその旨を伝える書状を書きますので、紙とペンをお願い致します」
 ビッテンフェルトから紙とペンを渡され、サユリは自分が黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターに命を助けられ、そのお礼として黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターに援助して欲しいという旨の書状を執筆した。
「完成しました。これがお兄様の手に渡ればサユリの文だと分かり、何かしらの援助を為さって下さる筈です」
「恩に着る。ところで貴方方はこれからどう為さるおつもりだ?」
「ええ。野盗を捕まえに行こうと思っています」
「何と!そのような危険な事を何故!?」
「それは、お兄様の力を借りるとしても、やはり野盗を捕まえておく事に越した事はないからです。そして野盗を捕える際、例えば貴方方黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターが大規模な捜索に出た場合、相手は捕まるのを怖れ活動を縮小させるだけで根本的な解決には至らないでしょう。
 ですが、相手が女性だとしたら野盗達はきっと油断する事でしょう。元々サユリとマイは野盗の情報を集める為スタンレーに赴く予定でした。そして野盗を捕まえる策は既に考えてあります」
「……。分かった、気を付けて行くのだぞ」
 サユリの頑なな思いにビッテンフェルトは惹かれ、サユリ達を止めようとしなかった。
「では、サユリ達はこれで…」
「待て!行く前に一つだけ伝えておきたい事がある。数日前にこの街に一人の少年が訪れたのだが、その少年も君達のように野盗を捕まえるといって街を後にした。
 その少年は亜麻色の頭髪で東洋風の格好をしていた。旅先でもしその少年に会ったのなら、迷わず協力する事を薦める!」
「お心遣い感謝致します。では後程」
 ビッテンフェルトに深々と礼をし、サユリとマイは野盗を捕まえる為にスタンレーを後にしたのだった。



 一方その頃、薔薇の騎士ローゼンリッターと行動を共にしていたユキトとジュンは、ユーステルムへと到着した。
 一年の三分の二を雪に包まれた寒帯地方に位置する街、ユーステルム。主に狩猟を生業とし、その習慣の延長上として世界でも有数の私兵集団薔薇の騎士ローゼンリッター連隊が結成されるに至った。ちなみに、薔薇の騎士ローゼンリッターの主な常務は、ユーステルムの防衛と、陸運、水運の護衛である。
 近年モンスターが増大した事により隣町まで行くのも安全が保証されず、世界中の各都市は防衛を強化せざるを得なかった。その事により強力な防衛力を伴う領主が庶民を統治する領主国家制、もしくは薔薇の騎士ローゼンリッター連隊や黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターなどの私兵集団の防衛力により街を統治する都市国家制が世界の主流となった。
「連隊長!只今任務を完了し帰還致しました」
 薔薇の騎士ローゼンリッターの本部へと帰還したブルームハルトは、連隊長のシェーンコップに帰還の挨拶をした。
「ご苦労。そのやつれ顔だと、鼠退治も楽な仕事ではなかったようだな」
「は、はぁ…」
 シェーンコップに図星を突かれたブルームハルトは苦笑せざるを得なかった。
 ややグレーがかったブラウンの頭髪、褐色の瞳。体型はガッシリした壮年期の男である。
「実は”鼠退治”は我々の手には負えず、ある方々の協力によって退治出来たのです」
「ほう、鼠も退治出来んとは我々の薔薇の騎士ローゼンリッターも地に落ちたものだな」
「申し訳ございません…。それでその方々が連隊長にお会いしたいと仰り、ここに連れて来たのですが…」
「ほう、我々薔薇の騎士ローゼンリッターを援護した勇敢なる者共を連れて来たのか。どれ、遠慮なく入らせろ」
「はっ」
 シェーンコップの許可をもらったブルームハルトは、ユキト達をシェーンコップの元へ連れ出した。
「ほう、君達が。見た所まだまだケツの青い小僧等にしか見えんな。しかし、君達のような若僧に助けられたとあっては、いよいよ我々が情けなくなるな」
「ああ。薔薇の騎士ローゼンリッターも大した事がないな。まあ、流石にアンタは期待を裏切ったりしないよな」
 そう言うと、ユキトはいきなりシェーンコップに向かって三日月刀を突き出す様に掲げた。
「俺はトルネード!薔薇の騎士ローゼンリッター連隊長ワルター=フォン=シェーンコップ、俺はアンタと戦う為にユーステルムに立ち寄った。アンタに一騎討ちの決闘を申し込みたい!」
「ほう、噂に聞きしトルネード。どんな奴かと思えば、お前のような小僧だったのか。悪いが、今の俺は小僧と戯れている暇はない」
「フン、怖気付いたか」
「勘違いするな。これから狩りの時期に入るから、今の内にモンスターを追い払っておかなければならんのだ」
 主に狩猟を生業とするユーステルムでは、モンスターに狩りの対象となる獲物を狙われるのは死活問題だった。よってユーステルムでは狩りの時期が近付くと、薔薇の騎士ローゼンリッターによってモンスターの掃討が行われていたのだった。
「そうだな…。決闘には付き合えんが、これから向かう場所でどちらがより多くのモンスターを倒したか競い合うというのはどうだ」
「客観的に力量を測るという事か…。面白い!アンタのその提案受け入れた」
「そうか。場所はここから北に向かった氷湖。お前さんのような若僧がどこまで出来るか楽しみなものだ」
「フン、今にその口を聞けなくしてやるよ」
 こうして成行きにより、ユキトは薔薇の騎士ローゼンリッターと共に、今度は氷湖のモンスターと戦う事となったのだった。



(シオリ…シオリ…どこなの?)
 ユウイチ達と別れたカオリは、野盗に拉致されたシオリを追い、ひたすら森の中を駆け巡っていた。
 シオリを護る為に一緒に旅に出たっていうのに…。カオリの心中はシオリが拉致された怒りと護り切れなかった悔しさ、そしてシオリと離れ離れになった哀しさが絶え間なく交差していた。
 足に負った傷は傷薬の効能によって回復に向かっているものの、周辺の地理を知らないカオリはシオリを拉致した野盗の痕跡を見失い、次第にその顔には疲労と焦りが見え始めていた。
「!?」
 前方から突如襲い掛かる矢に反応し、カオリは咄嗟に小盾で身を防いだ。
「誰!」
「俺達の縄張りに女一人で入り込んで来るとは愚かな奴だ。身包み剥がして売り付けてやるぜ!」
「くっ!」
 カオリの前に数十人の野盗が姿を現した!一人二人なら負けない自身があるとはいえ、流石に一人で数十人の野盗を相手にするのはカオリには困難であった。
「トマホーク!!」
 正攻法では勝目がないと思ったカオリは、奇襲戦法に出る事にした。まずは斧技トマホークを野盗に向かって喰らわせた!
「ぐわわ〜、腕が〜」
 投げた手斧は先程矢を放った男に命中し、男は痛みにより構えた矢を手放した。
「や、野郎〜!」
「野郎じゃないわ、私は女よ!ハイパーハンマー!!」
 野盗共はカオリが女だからと油断し、最初の一撃が与えられるまで具体的な動きを見せなかった。
 カオリはその隙を見逃さなかった。カオリは投げた手斧を拾い、今度はその手斧を前面に押し出す様に持ち、斧技ハイパーハンマーを野盗の一人に放った!
「ぐわわ〜!」
 勢い良く体当たりをかますカオリの勢いに負け、野盗の一人は尻餅をついた。
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!」
「くぅっ!」
 その間にも野盗の攻撃は休むことなく続けられ、カオリは、左股と右肩に矢のダメージを負った。
「これぐらいの痛みで…。はああ〜ジャイアントスイング!!」
 矢の傷みにより軽快な動きは多少封じられたものの、カオリは痛みに臆することなく尻餅をついた男の両足を掴まえ、体術技ジャイアントスイングを放った!
「ブウウン、ブウウン、ドカァッ!」
「ぐわ!」
「ぎゃ!」
「ぐぇっ!」
 勢い良く投げ付けられた野盗の身体は宙を舞い、その身体は数人の野盗に伸しかかった。
「はぁはぁ…」
 数人の野盗を行動不能にしたものの、カオリの身体の負担も大きく、ジャイアントスイングを放ち終えたカオリは地面に膝をついてしまった。
「なかなかやる女だな。だが、これまでだ!」
「くっ…!」
「地走り!!」
 絶体絶命に陥っていたカオリの前に、突如野盗目掛けて大剣技地走りが放たれた!
「うぐあああ〜!」
 その一撃は残った野盗共に命中し、野盗の殆どが行動不能に陥った。
「大丈夫でしたか?」
「ええ、少し怪我は負ったけど何とか…。あら、貴方は…」
 自分を助けた少年にカオリは見覚えがあった。直接話した記憶はないが、何処かでチラッと顔を見た記憶があるとカオリは思った。
「僕は貴方が誰だか分かりますよ。シオリ、いえシオリさんのお姉さんですよね!」
「思い出したわ!確かオーディンの酒場でシオリが話してた…」
 少年の口からシオリの名が出た事により、カオリは目の前の少年が誰か認識出来た。
「それに確かハイネセンでもシオリと話してたわね…」
 名前はよく分からないが、行く旅の先々でシオリと話していた少年。遠目でもシオリが親しみげに話していたのが分かり、それなりに気にはなっていた人であった。
「ところで、シオリさんは…?」
 シオリから姉と共に旅をしている事を聞いたユリアンは、カオリの側にシオリがいない事に疑問を持った。
 以前の会話からしてもシオリはお姉さんと仲が悪いようには見えなかったし…。遠目から見ていたカオリは妹想いの姉にしか見えなかったからこそ、ユリアンは余計にシオリの姿が姉の側にない事に違和感を感じられずにはいられなかった。
「貴方はシオリと仲がいいみたいだから話すわ…。実はシオリは……」
「何ですって!?野盗に拉致された…?」
「ええ…それで野盗を追ってここまで来たんだけど…」
「そうなんですか…。実は僕も野盗のアジトを叩く為に…」
「うう…」
 その時、一人の野盗が起き上がった。
「!」
 その瞬間をカオリは見逃さなかった。傷の痛みも顧みずに、駆け足でその野盗の元へ駆け付けたのだった。
「答えなさい!貴方達のアジトは何処!?」
「ひっ!オレ達のアジトは、スタンレーの近くの山中にあります!」
 襟元を掴み、鬼気迫る顔で問い質すカオリに圧倒された野盗は、思わずアジトの場所をさらけ出してしまった。
「そう、ありがと…」
「ボスッ!」
「ぐふっ!」
 アジトの場所を聞き出すと、カオリは野盗の腹を手斧の柄の部分で殴り付け、再び気絶させたのだった。
「さて、野盗のアジトは聞き出したけど、貴方はどうするの?」
 ユリアンの方を向き、カオリは訊ねた。先程の会話から察するに、具体的な目的は分からないが、少なくとも自分と同じく野盗のアジトを詮索していた筈だ。それならば目的が一致する筈だと思い、問い掛けたのだった。
「もちろん、貴方と共に野盗のアジトに向かいます。シオリさんが拉致されたなら尚更助けに行かなきゃ」
「そう答えると思っていたわ。そういえばまだ名前を聞いていなかったわね」
「僕はユリアン、ユリアン=ミンツって言います」
「私はカオリよ。じゃあ一緒にシオリを助け出しましょ、ユリアン!」
「ええ!」
 シオリの絆により思わぬ邂逅をしたカオリとユリアン。そして二人はシオリを助ける為に、共に野盗のアジトへと乗り込んで行くのだった。


…To Be Continued


※後書き

 とりあえず今回は、「ファルスとスタンレーの戦い」、「野盗の巣窟を叩く」、「氷湖のモンスターを倒す」の導入部分を書いたという感じです。次回はこの辺りを本格的に描くので、バトル、バトルの連続となる事でしょう。
 さて、今回いきなり登場した黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターですが、個人的にはお気に入りの部隊ですね。まずは名前がカッコイイ。薔薇の騎士ローゼンリッターも捨て難いですけど、名前はこちらの方が好きです。それに黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイターを率いるビッテンフェルトが大好きです。政治的な見解を述べるキャラが多い銀英伝の中、深いことを考えずに猪突猛進で攻める感のビッテンフェルトは、見ていて楽しいですね。
 しかし今回、黒色槍騎兵シュワルツ・ランツェンレイター薔薇の騎士ローゼンリッターのリーダー格と主人公陣が出会うシーンの書き方に大差がないですね…(苦笑)。この辺り文才がないと思いつつ、差別化が出来るように頑張りたいものです。

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